オリンピアスウェーデン研修2022―その5

ヴェクショーでの充実した時間はあっという間に過ぎ、いよいよ最終日となりました。

 

朝8:00にホテルをチェックアウトして向かったのは、ヴェクショー市の北部に位置する高齢者施設エヴェリード(Evelid)。私も何度か訪問している施設ですが、一部のユニットが民営化されまた市営に戻ったりと紆余曲折を経て、2019年からはショートステイと終末期ケアの施設として運営されています。

施設長のエミーさんは、私たちのためにたくさんの資料を用意して、ここでの取り組みについて分かりやすく説明をしてくれました。

 

 スウェーデンのショートステイには、在宅生活が難しくなった場合や、家族が旅行などで不在のときに利用する「ショートステイ」(Korttidsboende)と、月に14日を限度に、ショートステイと在宅生活を交互に行う「ローテーションケア」(Växelvård)の2種類があり、ここではどちらにも対応しています。

また、2020年3月から2021年9月までは、2つのユニットを使って、ヴェクショー市営の全ての高齢者施設と在宅での新型コロナウイルス感染者を受け入れていました。

 

スウェーデンでは、1990年代に行われたエーデル改革以降、「医療は県」「福祉は市」と責任分担が明確になり、治療の終わった患者を病院から早期に退院させ、市の福祉サービスに繋げるようになっています。近年はこの取り組みがかなり厳格化され、県の病院を退院した高齢者をショートステイで早く受け入れないと、県に対してペナルティを払わなければならなくなっています。このため、ショートステイの空室を確保するために、早く高齢者施設に入居してもらったり、在宅に復帰してもらうように働きかける必要があります。とても合理的な考え方であるだけでなく、結果として高齢者の生活の質を高める取り組みになっていることは、とてもスウェーデンらしいと感じました。

さらに、エヴェリードは高齢者福祉の教育センターの役割も担っていて、クロノベリィ県の8つの市だけでなく、民営の施設の職員教育も受託したりしています。ここには実習生を受け入れるためのスーパーバイザーが15人所属していて、次世代の介護人材の育成にも大きな役割を果たしています。

「ここはヴェクショーの高齢者施設の中でもフラッグシップなんです!!」とエミーさんが自信をもって言っていたのが、とても印象的でした。

 

続いて訪問したのは、民間のヒューマーナ(Humana)社の運営する高齢者施設。グループリーダーのジェシカさんがお話をしてくれました。全部で8ユニット(各9室)から成るこの施設は、現在6ユニットで運営しています。入居者の年齢層は60代から103歳までと幅広くなっていますが、やはり80代後半の方が中心となっています。スウェーデンではときどき、民営の施設でのスキャンダルがマスメディアを賑わすことがありますが、この施設はかなり充実した住環境の中でケアにも力を入れている印象を受けました。

朝7:00からスタッフは仕事をスタートし、入居者さんが起き始めて着替えやトイレ、朝食を済ませます。午前中にはそれぞれの興味に応じて、運動やビンゴなどのアクティビティがあり、12:30ごろから昼食。軽く昼寝をしたあと、14:00から午後のアクティビティやフィーカの時間があり、17:30ごろに夕食、というのが典型的な1日の流れです。

ユニットを見学させてもらっていると、ちょうどお菓子や雑貨の移動販売をしているところに出会いました。自分の好きなお菓子やお酒なども、事前に頼んでおけば仕入れてもらえるそうです。現金だけではなく、Swishというスウェーデン全土で使われているキャッシュレス決裁システムでも支払いが可能。さすが世界で最もキャッシュレスの進んだ国ですね!

 

ランチは、リンネ大学の敷地内にあるテレボーイ城(Teleborgs Slott)のレストランで。1800年代に地域の豪農が奥さんの誕生日プレゼントに建てたというこのお城、現在はホテル・会議室・レストランとして運営されています。この日もレストランは満席。日常生活の中に、ちょっとした非日常的でゆとりのある、贅沢な時間が存在することが、とてもうらやましく思えますね。

 

研修の全てのプログラムを終え、時間が少しできたので、スウェーデンで最も古いカフェ「Broqvist konditori」で、鈴木先生と振り返りを行いました。今回もスウェーデンに来て改めて気づかされたのは、高齢者福祉・障害者福祉・保育に関係なく、利用者ひとりひとりのために、良いことであればそれをどんどんやろうという精神。もちろん、財政的な問題や、国内外の政治的に難しい状況、人材の採用・育成など、スウェーデンにも課題はたくさんあります。でも「社会政策の実験室」とも言われる、新しいことにチャレンジを続ける姿勢からは、私たちが学べることが多いのではないでしょうか。


車でアルベスタ駅まで移動して、電車でストックホルムへ。4時間弱の長旅でしたが、研修の疲れからか、ウトウトしている間にあっという間に到着しました。

さあ、明日はストックホルムの観光です‼︎


Tsukasa