オリンピアスウェーデン研修2022―その3

どんよりとした曇り空のヴェクショーの朝。7:00にレストランに行くと、すでに宿泊客でいっぱいでした。今回も宿泊先に選んだHotel Cardinalは、駅前の好立地と夕食が付いていることが大人気で、本館・別館に加えて3号館までオープンしたほどです。

 

さて、今日の午前中の訪問先は、ヴェクショー市の北部に位置する、市立の高齢者施設「トフタゴーデン」(Toftagården)。ここは、9名の高齢者ユニットが3つと、8名の障害者のためのユニットが一緒になっています。今回は事務長のヘレーナさんから、取り組みの様子やコロナ禍での対応について、詳細にお話を伺いました。

ここの高齢者部門では、各ユニット2名ずつのスタッフが、午前・午後・夕方に分かれて勤務していて、夜間は3つのユニットを2名のスタッフでカバーしていましす。基本的にスタッフはアンダーナース(Undersköterska:日本の介護福祉士に相当)の資格を持っていて、日常的な介護やご家族とのコンタクトなどを行っています。スタッフが病欠のときには、市で確保しているフリーの介護士さんがヘルプに入ります。スウェーデンでは、日本のように人員配置基準がないので、入居者の介護ニーズに応じて、スタッフを増やしたり減らしたりしています。施設の予算は、施設長と経理担当者が市の高齢者福祉課長と月に1回ミーティングを行い、年間を通じてしっかりと管理されています。

コロナ禍のときは、施設は完全にロックされ、外部からの立ち入りは制限されました。しかし、施設内での活動は、できるだけこれまで通り継続するという方針が採られました。利用者が感染した場合は、居室に隔離され、フェイスシールド・マスク・手袋・ガウンを身につけた介護士が慎重にケアに当たりました。市が作成した感染症対策マニュアルを徹底した結果、入居者の感染は2名に抑えることができたそうです。8月に訪問した別の施設では、ほぼ全ての利用者が感染したという話を聞いていたので、かなり対策がうまくいったケースと言うことができるでしょう。

施設の内部は非常にアットホームな雰囲気です。各居室にはベッドルーム・リビングルーム・バス・トイレ・ミニキッチンがあり、使い慣れた家具や思い出の品々をたくさん持ち込むことができます。見せていただいた部屋にはとてもたくさんの家族の写真や、食器などのコレクションが飾られていて、とても素敵な空間になっていました。

ミーティングスペースには、とても大きなタッチパネル式のディスプレイが設置されていて、アフリカの動物たちのライブ映像を見たり、ゲームを楽しんだりできるようになっていました。伝統的なケアを大切にしながらも新しいテクノロジーを積極的に活用する様子は、とてもスウェーデンらしい感じがしました。

 

見学を終えて、昼食は施設のレストランでいただきました。メニューはチキンのカレーソース煮込みか魚のトマトソース煮込みから選ぶことができました。もちろん、入居者のみなさんと同じメニューです。私は何度もトフタゴーデンで食事をしていますが、いつも安定のおいしさです!

食事をしていると、入居者の方々が集まってきました。普段はユニットのダイニングでみなさん食事をされるのですが、ときどきイベント的にレストランで食事をするとのこと。オシャレな服を着てしっかりとお化粧をして、食事を楽しんでいる雰囲気がとてもよく伝わってきました。スタッフは最低限必要なケア以外は手を出さず、ゆったりとした時間が流れていたのが印象的でした。

 

さて午後は、子どもの自主性や個性を尊重する「レッジョ・エミリア教育」を実践しているヴォールヴィーケン(Vallviken)幼稚園を訪問しました。2020年にヴェクショーの建築賞を取った自然を大切にした設計の

建物で、年齢に応じた4つのクラスに分かれていて、1歳から5歳まで合計で84人の子どもたちが通っています。ここでは、民主主義をベースにした教育哲学に基づいて、子どもの意見や合意を大切にしながら教育を実践し、科学的手法をベースにした記録や評価を行っています。現在、園全体で自然をテーマにしたプロジェクトが進められていて、子どもたちはミツバチやクモ、森の木々などについて、観察したり、学んだり、絵を描いたり、粘土細工を作ったりと、年齢や能力に応じて自発的に活動ができる仕掛けが随所に散りばめられていました。スウェーデン名物のお昼寝コーナー(冬でも外気に触れながら寝袋で寝ます!)の天井には、芸術家の作った木のオブジェが飾られていて、子どもたちが五感をフルにつかって1日を過ごすことができる幼稚園となっています。お話をしてくれた園長先生や主任の先生たちも私たちがどう感じるのか興味津々で、熱心にメモを取りながら、私たちの話を聞いてくれていたのが印象的でした。

 

夕方少し時間ができたので、聖シグフリッド国民高等学校(S:t Sigfrids folkhögskola)を訪問しました。国民高等学校とは北欧独自の教育システムで、移民の人たちの語学教育や、高校をドロップアウトした子たちの教育、ジャーナリズムや音楽などの専門教育など、多様なプログラムを提供しています。20年前、私が留学していたときに、空手部を作るために毎週訪問していた場所でもあります。学校は牧場に囲まれていて、昔の雰囲気のままでしたが、当時空手をやっていた体育館は、立派な音楽スタジオにリニューアルされていました。

明日も充実したプログラムの1日となっていて、いまから楽しみです!

 

Tsukasa