オリンピアスウェーデン研修2018―その4

スウェーデンの人たちの朝は、日本に比べるとちょっと早め。だいたい8時ごろから仕事を始める人が多いので、7時に朝食に行くと部屋はあっという間に一杯になってしまいました。

 

今日は9時から、知的障害のある方々が働く紙細工の工房「パッペリーアン」(Papperian)を訪問しました。ヴェクショーのメインストリートから少し入ったところにお店と工房があり、ここで作られた商品はデザインや色使いがユニークで魅力的なので、ヴェクショーの人たちからとても愛されています。オリンピアの研修では毎回欠かさず見学していますし、私も留学していたときに何度もお邪魔しました。すっかり顔なじみとなった、スタッフのモニカさんとエヴァさんが活動の様子についてお話しをしてくれました。

現在ヴェクショー市には26箇所の障害者のためのデイケアセンターがあり、そのひとつであるパッペリーアンがオープンしたのは1997年。月曜日から金曜日まで、15人の利用者が登録し、毎日8人ぐらいが通っています。複数のサービスを利用している人も多く、カフェで働いたり、演劇や歌のグループに属している人もいます。最初に4週間の体験利用を行うことによって、利用者とのミスマッチを防いでいるとのことでした。パッペリーアンの魅力はなんといってもお店があるということ。憧れのレジの仕事ができるということで人気があるそうです。このレジ、タッチパネルで商品やお金の写真を押すと自動的に計算ができるという優れもの。支払いは現金、クレジットカードのほか、携帯電話番号と銀行口座を紐付け、スマートフォンのアプリで支払いができる"Swish"にも対応していたのには驚きました。

私たちも実際に紙すきを体験させてもらったり、お店を見せてもらったりと、楽しい時間を過ごすことができました。お土産にぴったりの商品がたくさん販売されていますので、ヴェクショーにお越しの際は是非お立ち寄りください!!

 

続いてはヴェクショー市役所で、福祉部長のエヴァさん(Eva Ekman)から、福祉人材の確保と育成についてお話を伺ういました。現在ヴェクショー市の高齢化率は20%、2021年からはスピードアップすることが予測されています。この状況に対応するために、福祉部では35名のスタッフが「高齢者福祉」「障害者福祉」など9つの部署で働いています。実際のケアに目を向けると、ヴェクショーの福祉サービス現場では2,300人のスタッフが働いており、高齢者分野が1,100人、障害者部門が700人、家庭医療が120人、リハビリテーション70名となっています。ここ数年、スウェーデンも景気がいいということで、人材の確保が困難になってきています。この状況を改善するために、施設長や看護師の給料を上げたり、デジタル化を進めることによってより少ない人員で効果的なサービスを提供できるようにしたり、様々な取り組みが行われています。介護の分野においてロボットやIoTなどの技術を導入することに抵抗はないかと質問したところ、「ノーマルな生活ができるようになるためであれば抵抗はない。当事者団体にも実物を見てもらうことによって理解を深めている」という答えが返ってきました。積極的に新しいものを取り入れてよりよい社会を作っていこうという姿勢は、私たちも学ばなければならないと改めて感じさせられました。

 

スウェーデンで典型的な小エビのオープンサンドで軽く昼食を済ませたあと、急遽、ヴェクショーに最近導入されたばかりの「移動幼稚園」を見学させてもらえることになりました。野外活動をベースにしたこの幼稚園は、大型バスを改造し、20人の子どもが乗ることができるようになっています。現在、18人の子どもたちが3人の先生と運転手さんと一緒に9:00に出発し、15:00に幼稚園に戻るようになっています。今日はヴェクショーの南の方にある自然保護公園にバスを停め、子どもたちは元気に自然の中に遊びにいっていました。この移動幼稚園、ヴェクショーでもかなり話題になり、新聞などにも度々取り上げられていたということです。予定外の見学でしたが、大変貴重な経験となりました。

 

午後は、ヴェクショー出身のノーベル賞作家ペール・ラーゲルクヴィスト(Pär Lagerkvist)の名前が付けられた、ペール・ラーゲルクヴィスト・スクールを訪問しました。去年の8月にオープンしたばかりのこの学校は、小学校・中学校・こども園が併設され、将来的には1,000人の子どもを受け入れることができます。ヴェクショー市でも先進的な取り組みを行っているこの学校での実践が、他の学校のモデルとなるとのことでした。デジタル化には特に力が入れられていて、97の教室全てにプロジェクターが設置されているほか、こども園からiPadを積極的に使っています。また、各園児のレポートを親が読むことができる新しいシステムも導入されていました。昨年も訪れましたが、白樺の木材をふんだんにつかった建物はとてもスタイリッシュな北欧デザインで、この環境で勉強をすればきっと素晴らしい感性が育まれるだろうなとうらやましく思いました。

 

そして夜。リンネ大学の医療福祉学部で実習のコーディネートをしているツム(Zum Wik)さんご夫妻が、自宅へと招待してくれました。教えてもらった住所を探し当てて到着すると、とてもスウェーデン的で素敵な一軒家がありました。インテリアは家具屋さんのショールームのように素敵にアレンジされていて、長くて暗いスウェーデンの冬も楽しく過ごすことができそうな雰囲気でした。ツムさんは日本から訪れている私たちのために、「ヤンソン氏の誘惑」やスモークサーモン、ミートボールなど、スウェーデンの伝統的なクリスマス料理を用意してくれていました。スウェーデンの蒸留酒シュナップスをいただきながらお話に花が咲き、とても思い出に残るスウェーデンの夜となりました。

 

Tsukasa